『銭形平次捕物控』 「狼の牙」 三  (おおかみのきば)       著:野村胡堂 より一部抜粋


【還暦ジジイの解説】


 「業平男」は、「なりひらおとこ」と読む。

 現代なら、ちょっと古いが、男優の火野正平か(笑)

 「間がな隙がな」も知らなかった。特に隙を「すさ」と読むとは、誤読かと確かめた。


 銭形平次は昭和始めに書かれた小説。

 今や昭和百年。

 しかし、言葉は遠い昔にしちゃあならない、と思う。


【本文】 註:旧かな遣い、正漢字で書かれています。


「それからこれは狼の話とは別ですがね、お絹は近頃(ちかごろ)(とどろき)三次(さんじ)愛想(あいそう)()かして、()けるやうにして()たと言ひますが、

()つ込んで調べて見ると去年の暮あたりから、佐久間町の小間物やで丸屋の(せがれ)勇三(ゆふざう)といふ、

飛んだ業平男(なりひらおとこ)(ねんご)ろになり、()がな(すさ)がな逢引(あひびき)などをして()たさうですよ」


【語彙説明】


〇伜/倅(せがれ) ・・・ 自分の息子をへりくだって(謙遜して)親しみを込めて呼ぶ言葉。


〇業平男(なりひら-おとこ) ・・・ 色男、好色な男性という意味。歌舞伎や浄瑠璃の題名にも使われる。

 業平は、平安時代初期の貴族で歌人で在原業平(ありわらのなりひら、825年頃生)のこと。

 <血筋>父は平城天皇の皇子・阿保親王、母は桓武天皇の皇女・伊都内親王で、祖父が二人とも天皇という高貴な出自。

 <官職>従四位上、蔵人頭、右近衛権中将などを歴任し、六歌仙・三十六歌仙の一人として和歌の才能を称えられた。

 <文化的影響>『伊勢物語』のモデルとされ、隠遁者的立場から自由を得て、後世に残る歌と物語の世界を築いた。


〇間(ま)がな隙(すさ/すき)がな ・・・ ひまさえあればいつでも、しょっちゅう、ひっきりなしに、という意味の副詞。

 <意味>少しの時間も空けず、始終同じことをしている様子や、絶え間なく続くさまを表します。

 <語源>「間(ま)」も「隙(すさ・すき)」も、時間や空間のすきまを意味します。

 そこに助詞の「がな」がついて、漠然と「〜の間や、〜の隙あらば」という意味を作り出しています。



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