羞花閉月‐『江東の二喬』


孫策(そんさく)周瑜(しゅうゆ)は、揚州(ようしゅう)(後の呉国)を治め、その名を知らぬ者は居ない。

二人は同い年、馬の合う親友であった。

二人が(はん)の町を通りかかったとき、姉妹と思われる二人の美女を見掛けた。


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孫策「周瑜!あんな美しい女がいるんだなあ」

周瑜「妻にしたいなあ」

孫策「お前はどっちが良い?」

周瑜「俺は左の黄色い服の方」

孫策「俺は右の青い服の方だ」

周瑜「わっはっはっはっ、好みが分かれて良かったなあ」

孫策「ああ、喧嘩せずに済んだ」


それから三年後。


孫策「あの女達は、喬国老(きょうこくろう)の娘らしいぞ」

周瑜「おっ!調べたのか?姉妹らしいなあ、大喬(だいきょう)小喬(しょうきょう)と云うらしい」

孫策「なんだ!お前も調べたんじゃないかっ」(笑)

周瑜「おい!孫策、結婚を申し込みに行こう!」

孫策「いや、俺は嫌だ。俺だと分って嫁に貰うのは嫌だ」

周瑜「なに訳の分からないこと言ってんだい。自分と言わなきゃどうするんだい?」

孫策「そうじゃあない。孫策だと知れれば、相手の親も承諾するだろう。それが嫌なんだ。

俺は男として、あの(ひと)の心を(つか)みたいんだ。」

周瑜「孫策!お前!恋がしたいのか?」

孫策「ああ!そうだ!無理矢理は嫌なんだ。」

周瑜「じゃあ、どうするんだ?」

孫策「(さら)おう!」

周瑜「えっ!?攫う?」

孫策「(さら)って二人の前で告白しよう!誠心誠意当たればきっと解って貰えるはずだ。名前を告げるのはその後だ。」

周瑜「ふふふ、俺も同じことを考えていた。ははははっ」


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そこで二人は、()らず者を手懐(てなず)けて、姉妹に付く五人の護衛に喧嘩を吹っ掛けさせた。

孫策と周瑜は、姉妹を助ける風を装って小舟に(さそ)って乗せた。

護衛達が、成らず者を追い払い、岸から戻るように叫ぶが、孫策と周瑜は逃げるように急いで()ぐ。

様子がおかしいと気付いた姉妹が、顔色を変えた。

大喬「貴方達は誰なんですか?!」


すると、孫策と周瑜の二人は、(ひざ)を折って手を突き、

「私達は決して悪い者ではありません!私達の妻になって下さい!」と頭を下げた。


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大喬「えっ?どちらが・・・どちらなのですか?」

孫策「私は青い方」

周瑜「私は黄色い方」

大喬「えっ?」

孫策「いえ、私達はお名前を存じ上げませんので・・・。三年前に、私は青い方」

周瑜「私は黄色い方と決めていたのです」


大喬「三年前?」

孫策「そうです。三年前にお見掛けして好きになりました。こいつなんか、眠れない日が続いたと言っておりました」

周瑜「何言ってんだ!それはお前じゃないか!」

小喬「ぷっ!お姉さん、この人たち悪い人じゃないみたいよ」(笑)


大喬「貴方達、結婚を申し込むなら、きちんと筋を通すべきでしょ!」

孫策「いや、お父さんが怖い人で・・・」

大喬「貴方達は、私のお父様が怖いの?!」

孫策「いや!怖くはない!!ただ・・・卑怯(ひきょう)な真似はしたくないのだ!」

大喬「えっ?!これが卑怯でなくてなんなのです!」

孫策「う~ん」

小喬「ぷっ!お姉さん、やはり悪い人とじゃないみたいよ」(笑)


大喬「これは悪いことです。()(かく)、舟を岸へ戻して下さい!」

孫策「いや、その前に私達の妻になると約束して下さい!」

小喬「私は、いいわよ」(笑)

大喬「小喬!何を言ってるの!?」

小喬「あっ!お姉様!軍の船が・・・私達の護衛が連絡したのよ!」

大喬「貴方達、早く舟を岸へ戻して、お逃げなさい!助かりたいから言ってるんじゃないんです!」

小喬「そうよ!昔と違って、孫策様と周瑜様が統治してから、悪いことをすれば罰せられます。早く逃げで下さい!」

孫策「嫌だ!私達の妻になると約束をしてくれ!」

大喬「もう!分かりました!妻になりますから!」

孫策と周瑜「やったあ!!」


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(しばら)くすると、軍船から声がした。

程普「殿~っ!!周瑜殿もご一緒ですか!」

孫策「おう!程普(ていふ)!」

程普「これはこれは、女性(にょしょう)を連れてお戻りですか?あっはっはっはっ」

孫策「笑うな程普!この二人は私と周瑜の妻になる!」

大喬と小喬「えっ!?貴方達が、孫策様と周瑜様?!」



【解説】

上記の会話は、私が少し手を加え、短縮している。

是非、YouTube で視聴して欲しい。


小説『三國志演戯』で、大喬小喬は「羞花閉月(しゅうかへいげつ)」の美女と(うた)われ、『江東(こうとう)二喬(にきょう)』と呼ばれた。

孫策と周瑜の妻となったのは事実だが、経緯(いきさつ)は語られていない。

よって、この「二人を誘拐(さら)う」挿話は北方謙三の創作であろう。

だが、こんな面白い創作は、是非加えるべきである。

私は、王允(おういん)貂蝉(ちょうせん)を使って董卓(とうたく)呂布(りょふ)に仕掛ける「離間の計」も三国志には欠かせない話である、と思う。

抑々(そもそも)、『三國志演戯』は、創作の宝庫であり、後世の読者に色々と考えさせることに意義を有するのだから。


出典:『北方謙三 三国志 第61話~第70話』youtube 21分30秒~53分20秒


【 『ドラマ三国志 ThreeKingdom』の大喬と小喬 】

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