『魏志倭人伝』は架空の作り話(ぎしわじんでん)


 『魏志倭人伝』は政治的意図に基づいて捏造(ねつぞう)された、根拠のない机上の作文に過ぎない旨を、

岡田英弘氏が『日本人の誕生』〔平成6年〕で簡潔細緻に解明している。


 『魏志』を著作した陳寿(ちんじゅ)〔二九七年歿〕は、(しょく)から転じて(しん)(つか)えている。

 当然のこと晋に不利な事実や記事は書かず、晋の為政者(いせいしゃ)嘉納(かのう)する事項を、拡大(クローズアップ)せねばならぬ。

 三国鼎立(ていりつ)で生れた()を、倒したのが晋である。

 司馬炎が建てた晋朝の、基礎を築いたのは、祖父の司馬懿(しばい)と認められている。

 『三国志演義』〔一五二二年〕第百四回に、「死せる諸葛〔孔明〕、(おど)して()ける仲達を走らす」と(わらわ)れているあの男である。

 司馬懿の決定的な功績は、魏の景初(けいしょ)元年、遼東(りょうとう)で反乱した燕王の公孫淵(こうそんえん)を襄平に包囲して、

逃げるところを討ち、東北アジアを平定(へいてい)した戦果である。

 その政治的効果を讃えるため、東北アジアを征服した司馬懿の威勢が、海の彼方にも及んだと誇大に描くべく、

知りもせぬ邪馬台国を捻りだした。

 それもあまり遠くては意味がないので、思い切り南へ持ってゆき、敵国である呉の背後を()く位置に()えた。

 此処なら政治的に有効である。

 『魏志』は司馬懿を(しょう)するため、東夷伝(とういでん)を加えたが、西南北の辺境三地域には政治的必要なしと、筆を惜しんで記述しない。


 【出典】

  『幸福通』~アラン「幸福論」の知恵~

  著者:谷澤永一  発行社:海竜社  出版日:平成12年(2000年)7月1日  P.13~14


【語彙説明】

〇嘉納(かのう) ・・・ 1.人の箴言、意見などを喜んで聞き入れること。 2.進物などを喜んで受け納めること。

〇頌(しょう)する ・・・ 文章や言葉で人の功績などをほめたたえる。 類義語:賞(しょう)する。賛(さん)する。


【プロフィール】

〇陳 寿(陳壽、ちん じゅ)

 建興11年(233年)~ 元康7年(297年)、64歳没。

 チャイナの三国時代の蜀漢と西晋に仕えた官僚。字は承祚(しょうそ)

 『三国志』の著者として知られる。

 陳寿は儒学と史学を修め、蜀漢に仕えた。

 蜀漢滅亡後、西晋に仕えた。

 晋による三国統一がなされた後、『三国志』を完成させた。


〇岡田英弘(おかだ ひでひろ)

 昭和6年(1931年)1月24日~平成29年(2017年)5月25日。86歳没。

 日本の東洋史学者。東京外国語大学名誉教授。学位:東京大学大学院博士課程。東洋文庫専任研究員。

 専攻は満州史・モンゴル史であるが、チャイナ・日本史論についての著書もある。


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