『人格主義』  著:阿部次郎 より一部抜粋   赤字が出題された箇所


 私がここに人格的な愛といって、ただ一般に愛といわないのは、

愛にも人格的でないものが有り得るからである。

 対象を物質的慾望の塊と見て、

その慾望に奉仕することを主要事業とする愛は、

畢竟(ひっきょう)愛者自身が物質主義者であり、

彼の利己主義が(ようや)くその家族とか朋党(ほうとう)とかを含むまでに

(わず)かに拡大されたに過ぎないことを示すものである。

我々はかくの如き愛の実例を、孫に対する祖母の溺愛(できあい)や、

偏頗(へんぱ)な排他的な愛国心等において発見することが出来る。

祖母がもやし豆を作るときのように厚着をさせ、豚に喰わせるように食物をあてがって、

その愛撫(あいぶ)の心を満たそうとするのは、彼女がその孫を人格と見ないで、

飲みたい食いたいの塊と見ている証拠である。


【解説】

 朋党(ほうとう)・・・主義や利害を共通にする仲間。徒党。



漢検の出題:平成19年度(2007年)第1回 準1級 (十)〔文章問題〕



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