『本朝文粋』 巻第一 紀納言  『貧女吟』 (きのなごん ひんぢよのぎん)

  註:文中の赤字は出題された箇所


【ジジイの説明】





 <『本朝文粋』 巻第一 紀納言 『貧女吟』>



【現代口語訳】          註:カタカナのルビは名詞





【読み下し文】


 貧女吟  紀納言

女有り女有り寡にして又貧し。年齒蹉跎たり病日に新なり。紅葉門に深くして行跡斷え、四壁虛しき中に苦辛多し。

本は是れ富家鍾愛の女、幽深窓裏養はれて身を成す。

綺羅脂粉粧に暇無し、謝せず巫山一片の雲。年初めて十五顔如玉の如し、父母常に言へらく「貴人に與へむ」と。

公子王孫競相挑。前月花下通慇懃。

父母被欺媒介言。許嫁長安一少年。少年識亦無行。父母敬之如神仙。肥馬輕裘與鷹犬。毎日群遊俠客筵。

交談扼捥常招飮。一日之費數千錢。産業漸傾遊獵裏。家資徒竭醉歌前。十餘年來父母亡。弟兄離散去他郷。

聟夫相厭不相顧。一去無歸別恨長。日往月來家計盡。飢寒空送幾風霜。秋風暮雨斷腸晨。憶古懐今涙濕巾。

形似死灰心未死。含怨難追舊日春。單居抱影何所在。滿鬢飛蓬滿面塵。落落戸庭人不見。欲披悲緒遂無因。

寄語世間豪貴女。擇夫看意莫見人。又寄世間女父母。願以此言書緒神。



【原文】


  『貧女吟』  紀納言


有女有女寡又貧。年齒蹉跎病日新。紅葉門深行跡斷。四壁虛中多苦辛。本是富家鍾愛女。幽深窓裏養成身。

綺羅脂粉粧無暇。不謝巫山一片雲。年初十五顔如玉。父母常言與貴人。公子王孫競相挑。前月花下通慇懃。

父母被欺媒介言。許嫁長安一少年。少年識亦無行。父母敬之如神仙。肥馬輕裘與鷹犬。毎日群遊俠客筵。

交談扼捥常招飮。一日之費數千錢。産業漸傾遊獵裏。家資徒竭醉歌前。十餘年來父母亡。弟兄離散去他郷。

聟夫相厭不相顧。一去無歸別恨長。日往月來家計盡。飢寒空送幾風霜。秋風暮雨斷腸晨。憶古懐今涙濕巾。

形似死灰心未死。含怨難追舊日春。單居抱影何所在。滿鬢飛蓬滿面塵。落落戸庭人不見。欲披悲緒遂無因。

寄語世間豪貴女。擇夫看意莫見人。又寄世間女父母。願以此言書緒神。




【語彙説明】








*----------*

【出典 参照】

 日本古典文学大系69  本朝文粋   昭和39年6月5日発行 岩波書店



 次へ   前へ     小部屋    TOP-s