伍子胥は、なぜ河を渡れたか?  第二話の追記


この追記は、友人が退院した暁に、酒の(さかな)にしようと愉しみにしておいた話だが、披露する。


伍子胥(ごししょ)は、楚国から逃亡した。

途中、大きな河を、見知らぬ名もなき船頭が、向う岸に渡してくれた。

伍子胥は、船頭が自分と知って乗せたことに疑問を抱いた。

すると、船頭は、清廉潔白を静かに訴え、自ら舟を沈め入水した。

なんと美しい挿話(そうわ)であろうか!


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なんて、嘘で、当然ながら、伍子胥が、斬殺(ざんさつ)した。

と、書いた。

なんと!古代の英雄は、残虐な!!

と言いたいところだが、そうとばかりは言えないのだ。



この船頭は、確実に大金が欲しかったのである。

容貌魁偉(ようぼうかいい)な大男を「岸で見掛けた」「河を渡るのを見た」では、賞金を貰える可能性は低い。

他の者もきっと通報して、折半になるかも知れない。

親切ごかしに近づいて、本人と(たし)かめて、お役人に通報する。

夜半に舟に乗せてその後の道も案内しておけば、足取りも明らかだし、他の者に知れらる心配もない。

一挙両得なのである。

もし逃亡犯が大金をくれれば、通報はしない。

金を持っていなかったら、賞金を貰う。

両天秤にも掛けたのである。

残念ながら、伍子胥は素寒貧(すかんぴん)だった。


ええ~っ?!と驚く(なか)れ。

大陸の漢人は、(したた)かなのだ。

伍子胥は、それを見破って船頭を斬殺したのである。

抑々(そもそも)、罪人を逃したり、(かくま)えば、死刑である。

赤の他人を親切にする理由が無いし、無実だなんて後世の人しか知らない。

ましてや、農民や漁民を虫螻(むしけら)同然にしか考えていない武人に義理は無い。

ニッコっと笑って腹黒いのである。

日本の常識や物差しで測ってはならない。


後世の史家は、伍子胥を英雄に祭ると同時に、庶民に意地汚い奴が居たことを隠したかった。

だから話を改竄(かいざん)したのである。


「船頭は清廉潔白を訴え入水した?」

ちょっと!ちょっと!

作り話にも程があるでしょ!(笑)

あはははは




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